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365日オープンまるびぃ:開かれた美術館への1歩「市民美術の日」

この金沢21世紀美術館交流課のnoteをスタートさせる11月3日は「市民美術の日 オープンまるびぃ」が開催される日です。私はこのプログラムを担当している森といいます。
この機会に「オープンまるびぃ」の背景やこれから目指したいことを紹介します。

市民美術の日「オープンまるびぃ」について

金沢21世紀美術館は「新しい文化の創造」と「新たなまちの賑わいの創出」を目的に2004年に開館しました。
「まちに活き、市民とつくる、参画交流型の美術館」をミッションの1つに掲げる当館は展覧会やパフォーミングアーツなど様々な切り口で「人との関わり」を作っています。

「市民美術の日」は開館当初に設定された金沢市民のための1日です。
当館主催の展覧会(特別展・コレクション展ともに!)を無料で観覧できる日ですが「知るひとぞ知る日」でした。
2015年3月に北陸新幹線が開業すると、金沢の街は以前にも増して賑やかになりました。そんな2015年の市民美術の日の利用者は、それ以前に比べてかなりの落ち込みを見せました。「たくさんのお客様がいらしている一方で、地元の人たちには遠い存在になってしまっていないか?」
うっすらと感じていたことを、数字で見せられたような気がしました。

美術館は地元の人にこそ親しんでほしいというメッセージを届け、市民美術の日をもっと金沢の人に知ってもらうため、2016年に「オープンまるびぃ」と題してプログラムを行うことにしました。
大学で行われるオープンキャンパスは出迎えられている安心感を持って大学を訪れることができたり、教授や大学生と話すなかで自分の興味関心が見つかりますが、そんな様子をイメージして「オープンまるびぃ」と名付けました。

街のみなさんが口にしていた「混んでいる」「列に並ぶのは気が引ける」という言葉には、「市民専用カウンター」を設置し待ち時間が短くなるようにしました。落ち込んでいた利用者は回復し、以前の数倍にまで多くなりました。

また、美術館に足を運んでも、どんな人が働いているのかはわからないものです。「市民美術の日」にこそ、働いている人の顔が見えるよう、職員によるトークを毎年行なっています。展覧会に関連したトークはもちろん、エデュケーター、アーキビストなど様々な職員の目線で話すこともあります。2020年の今年はギャラリーツアーに加えシアター21を紹介するオープンシアターを行います。
プログラムとしてのトークだけでなく、事前の広報や協力の依頼、当日の館内各所での対応など職員一人一人が地元の方との接点を作るきっかけにしたいと考えています。

「まちに開かれた公園のような美術館」と「Joy'n」

当館の建築のコンセプトに『まちに開かれた公園のような美術館』というフレーズがあります。この「公園」という言葉が私はお気に入りです。公園にたくさんの遊具があったとしても誰もいなかったら単なる寂しい空間です。その一方で何もない原っぱでも、あるものを見出して工夫して遊ぶ人がいたら楽しい空間になる。そんな、人が集まる場所を象徴するような言葉だと考えています。
2018年の市民美術の日にはそんな「うまく遊ぶ人」を増やしたいと「Joy'n」と題し、プログラムを公募する企画を行いました。(楽しい=joy と 参加する=joinをかけた造語です。)美術館の空間を使ってワークショップ、パフォーマンス、カフェを行う団体を募り、市民の人を迎えてもらいました。美術館がプログラムを作るのはもちろんですが、美術館を「自分たちの場所」として使える人が増えることで「まちに活き、市民とつくる、参画交流型の美術館」に近づくのではないでしょうか。この取り組みは<まちの広場をみんなでつくる>というキャッチフレーズがついた「まるびぃArt-Complex」という事業の2019年リニューアルにつながっています。今では毎週カフェやマーケットが出店され、第二土日にパフォーマンスやワークショップが行われる光景が日常になっています。

これからの「オープンまるびぃ」について

イベントというのは、ある意味わかりやすいものです。特別な1日を企画し、広報をして、人が集まる。お客さんの人数や様子、アンケートでその日の成果を測ることもできます。足を運ぶ人もスペシャル感を楽しんでくださっているように見えます。
その一方で、「公園」はいつも街の中にあるものです。ハレの日だけでなく日常のそばにあったり、通りがかっては季節を感じたり。今日はちょっと1人でお昼を食べてみる、違う日は友達と話し込む、犬の散歩をする人を眺める日もあるかもしれません。
美術館にくる敷居をさげるスペシャルな日である「市民美術の日 オープンまるびぃ」から日常に溶け込む、公園のような「365日オープンまるびぃ」へ。どうやったらその姿に近づけるのか、これからも模索が続きます。特に今年は人が集まりづらくなるなかで、これまで行なっていた事業の見直しが様々なところでありました。
このnoteも、そうした変化の1つです。人と直接話すこと、作品を生でみることといった当たり前が当たり前ではないと突きつけられた後だからこそ、on goingなものを残していければと思います。

森 絵里花(金沢21世紀美術館 プログラム・コーディネーター)

写真:2019年度市民美術の日オープンまるびぃ「1日だけの!透明なまるびぃにみんなで絵を描こう!」風景