みんなとシアター21〜目の見えない人と映画鑑賞(実践編)
金沢21世紀美術館の地下1階にあるシアター21で2020年11月21日(土)と22日(日)に開催したフィルム映画祭において、19名の学生運営メンバーとバリアフリー音声ガイドを取り入れたレポートをお届けします。 ※前回の記事(準備編)はこちら↓
初日前日、東京から平塚千穂子さん(CINEMA Chupki TABATA、バリアフリー映画鑑賞推進団体シティ・ライツ代表)が到着し、音声ガイドの操作方法や目の不自由な方への案内方法を学びました。
音声ガイド用のラジオは片手に収まる小さなサイズで、イヤフォンは片耳用か両耳用を選ぶことができます。周波数を合わせ、暗がりで誤操作しないようにロックした状態で貸し出します。
目の見えない方の受付や案内方法について、平塚さんは「『初めてで慣れていません。必要なことがあれば教えてください』と伝えれば、本人か介助者がリクエストしてくれるよ」とメンバーをリラックスさせようとしますが、聞く側はどんな気持ちだったのでしょうか。
映画祭初日。「座頭市物語」では25名がバリアフリー音声ガイドと共に映画を鑑賞しました。大半は目の見える方で、アンケートによれば登場人物の動きや場面を的確に描写してくれるナレーションが加わり、新しい映画体験となったようです。目の見えない方と「一緒に」映画を楽しむための工夫が、それぞれの感覚で認知されたことを実感するひと時でした。
終演後の平塚さんによるトークでは、全国のバリアフリー映画上映の実態などが紹介されました。質問や感想を発表する時間には、中途失明された方がこの映画祭を楽しみにしていたこと、目が見えていた頃に「座頭市物語」を映画館で見た思い出、翌日に音声ガイド付きで上映する「嵐を呼ぶ男」への期待などを語ってくれて、胸が熱くなりました。
初日の振り返りでは、ミスの再発防止策、お客様への声かけや役割ごとの声かけ方法などについて、いろんな意見が出ました。
このような積極的なやりとりは、例えば目の見えない男性への接し方として、女性介助者の代わりに男性メンバーがトイレへの付き添いを申し出たり、目の見えない方はゆっくり歩くことを知り、優先入場を待つお客様へ安全入場のためと周知した上で、3名の目の見えないお客様を先にご案内するなど、2日目の現場に反映されていきました。
終了後、メンバーからは「1人で過ごす時間が多い中、美術館でみんなと会うと一気に明るい気持ちになれた」「最高だったという声を聞いてうれしくなった」「2日間みんなでフォローしあう素敵な時間を過ごせた」「来年は目の見えない人だけでなく、映画館へ行きづらい人が楽しめる機会をもっと作りたい」といった感想が届きました。
担当として、無事開催できた安堵感、バリアフリー上映に取り組めた充足感、そして若いメンバーとこの体験を共有できたことによるこれからへのワクワク感を得ることができました。平塚さんからの「これがスタート地点だね」というメッセージを胸に秘めながら、多くの人と「みんなとシアター21」を思い描き、行動していきたいと思います。
吉備久美子(金沢21世紀美術館 エデュケーター)
写真:中川暁文