みんなと美術館〜「またね」と言える場所
美術館で「お祭り」がしたい。
好きな場所で好きなことをしたい。
これが東京の下町で生まれ育った私の「美術館で教育普及担当の学芸員になりたい」志望理由でした。
私にとってお祭りとは、地元で御神輿を担ぐ5月の2日間。人が集い、エネルギーが生まれ、「楽しかった。またね」と日常へ戻って行く。待ってました!な特別な日を意味します。
小学6年生の時に初めて行った美術館の印象は、いろんな作品を見ることができる広い場所。
その後、大学4年生の時に博物館実習で「教育普及」という言葉を初めて聞き、美術館は他の人と作品を見て、気づいたことや感じたことを話し合う場所でもあると知りました。
社会人になると平日の休みは作品鑑賞ボランティアとして小学生と美術館で過ごし、展覧会を異なる人と繰り返し見る面白さにも目覚めました。
2003年、私は金沢21世紀美術館建設事務局へ教育普及担当として着任しました。
2004年10月に開館してからは、美術館で人と人、人と作品、人と出来事がつながるための橋渡し役を担っています。
好きな場所が働く場所となる中で、「毎日がお祭り」という感覚で、美術館を身近な場所と感じて来ている人はどれくらいいるのかな?と思うようになりました。
2018年、開館14年目に1つのミッションを与えられました。それは美術館に来たいけど来られない来館者層を調べ、地域の多様な人々が芸術文化を通して社会参加できるネットワークづくりに取り組むべし、というものでした。
美術館で過ごす人の「多様性」ってなんだろう。
どんな人たちが美術館でアートとの関係性を育めるとよいのか、もしくは望んでいるのか。学びの一歩として、見た目ではわかりにくい身体的な特性を持ち、手話をコミュニケーションに用いる耳が聞こえない「ろう者」を講師に招き、普段の生活や簡単な手話について教えてもらうスタッフ対象の勉強会を実施しました。
きっかけ1つで、入ってくる情報や人間関係はガラリと変わるものです。
勉強会の準備中、全国の自治体で手話言語条例が成立していて、障害のある人もない人も人格と個性を尊重し合いながら共生することが、社会全体で推奨されていることを知りました。
そして、ろう者の監督が音楽とは何かを問う無音の映画を制作していることを知り、数ヶ月後にはその映画の上映会と監督のトークを石川県立ろう学校や手話サークル、美術館ボランティアやインターンシップ研修生など、10の団体からなる有志21名と実施し、聞こえない・聞こえにくい・聞こえる多くのお客さまをお迎えすることができました。
とにかく一緒に一歩前へ進んでみると、「楽しかった。またね」という声を聞くことができました。
さまざまな発見、そして出会いの輪は、2年、3年と時を経て、少しずつ大きく、太くなってきている気がします。
吉備久美子(金沢21世紀美術館 エデュケーター)
イラスト:北口加奈子
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